公開セミナーを受講しました。
先日、日本行政書士連合会主催の
『LGBT等について知り、考える』~性の多様性を尊重し、LGBT等の性的マイノリティの人権を擁護する社会の実現に向けて~
というテーマのWebセミナーを受講しました。
2部制になっており、1部は「性の多様性と人権ー日本法の現状を読み解くー」という題で青山学院大学 谷口洋幸先生の基調講演でした。
国際人権法やジェンダー法の国際比較研究をされているそうです。
講演は、「1.人権の基本から考える」「2.性の多様性を理解すること」「3.日本法の現状ー世界との比較」「4.なぜ、人権の視点が重要か」の4つのヘッドラインからなっており、最初に「1.人権の基本から考える」という見出しで、
1948年12月10日に発表された世界人権宣言の概要、特に第一条と第二条のお話から始まりました。
1.人権の基本から考える
世界人権宣言
第一条 すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。
第二条 すべて人は、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治上その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、門地、その他の地位又はこれに類するいかなる事由による差別をも受けることなく、この宣言に掲げるすべての権利と自由とを享受することができる。
上記の宣言を性の問題から一般生活に当てはめると、
性的マジョリティ(多数者)場合
好きになる人との生活
- 結婚できる、結婚が将来の選択肢のひとつ → 結婚する権利
- 一緒に暮らしていても、いなくても家族 → 家族生活の権利
- 好きなことを言える、言っても問題ない空気 → 個人の尊厳
ありのままに自分としての生活
- 生まれた時に決められた性別のまま生きている → 自己決定権
- 生活している自分がそのまま認識される → 個人の尊厳
- 学校や職場に安心して行くことができる → 教育についての権利、労働の権利
などが保障されています。これらは当たり前すぎて、人権として認識されにくいということです。
ところが、上述のように、社会は性的マジョリティを前提にデザインされているため、性的マイノリティ(少数者)についての権利は考慮されておらず、そのためにさまざまな、一般生活上の困難がある、というのが現状だということでした。
性的マイノリティの場合
好きになる人との生活
- 結婚できない、結婚が将来の選択肢に入らない。→ 結婚する権利が認められていない
- 一緒にいても赤の他人として扱われる。 → 家族生活の権利が認められていない
- 好きなことを言えない、言ってはいけない空気 → 個人の尊厳が守られているとは言えない
ありのままに自分としての生活
- 生まれた時に決められた性別のまま生きさせられる → 自己決定権が侵害されている
- 生活している自分がそのまま認識されない → 個人の尊厳が侵害されている
- 学校や職場が安心できる場所ではない → 教育についての権利、労働の権利が保障されていない。
人権は「すべての人」のものなのに現状はマジョリティだけが”人権”を保障された状態であるということです。つまり LGBTQの権利は”特別な権利”の話ではなく、普遍的人権であるということを認識する必要があるということでした。
2.性の多様性を理解すること
続いて、性に関する特徴による区分について解説してくださいました。
性的マジョリティと性的マイノリティは、性的指向/性自認/性別表現/性的特徴/によって、区分されます。そしてこの区分は社会において”人権を制限する軸”にもなっています。
SOGI にもとづく区分
性的指向(Sexual Orientation)
- 人が他者の性や性別に関する事柄について身体的、恋愛的、感情的に惹かれること
- 異性、両性、同性に向けられる場合や誰にも向けられない場合など
性的指向(SO)にもとづく制限
性的マジョリティ=異性愛 / 性的マイノリティ=ゲイ・バイセクシュアル・レズビアン・アセクシュアル
性自認(Gender Identity,性(別)同一性)
- 人が生きている/生きたいと確信・経験している性別
- 出生時に割り当てられた性別と同じ場合や違う場合、いずれにもあてはまらない場合など
性自認(GI)にもとづく制限
性的マジョリティ=シスジェンダー / 性的マイノリティ=Aジェンダー・ノンバイナリー・トランスジェンダー・Xジェンダー
SOGI以外の区分/ 制限
性別表現(Gender Expression)
- 人の言動や外見にあらわされている性別
- 他の性の要素と一致している場合や一致していない場合、他者からの見なされ方によって異なりうる
性的特徴(Sex Characteristics、体の性のあり方)
- 人の身体のうち性に関連する部分や機能
- 多様なバリエーションが典型的とされる男・女の形式に二分されている
人権が制限されている事由
性的指向(Sexual Orientation)
性自認(Gender Identity)
性別表現(Gender Expression)
性的特徴(Sex Characteristics)
上記4つの頭文字からSOGI,SOGIE,SOGIESCなどと略される。
世界人権宣言から鑑みるに、すべての人は、 SOGI(ESC)にかかわらず、人権享有主体であるということです。
3.日本法の現状ー世界との比較
世界に共通する法的課題
1.ソドミー法: 同棲同士の性的関係に刑事罰を科す法規定。宗教や慣習に起因する場合が多い。
2.性別の変更: 生まれた時に割り当てられた性別とは異なる性別として生きるための医療介入や法的承認とその条件。
3.同性婚: 同姓同士の関係性を婚姻や家族として法的に保障。パートナーシップ法、性別による婚姻制限の撤廃など。
4.差別禁止: SOGI(ESC)にもとづく不合理な別異取り扱いに対して法律や行政・刑事罰をもって規制。
日本法の現状
1.ソドミー法: 刑事法規定として存在せず。ただし、ソドミー法がある国から逃れてきた人々の難民申請の面で関係あり。
2.性別の変更: 医療措置は適法(一部保険適用あり)。法的な変更には非婚、子なし、不妊、性器形成などの要件あり。
3.同性婚: 事実婚と同等とみなす判決あり。ただし、国レベルでの婚姻・家族関係として認められず法的に他人
4.差別禁止: SOGI(ESC)にもとづく差別を禁止する法規定は存在せず、パワハラ防止の文脈でSOGIハラは規制。
このように日本では、LGBTを特別に排斥するような法律や社会制度等はありませんが、一般的権利として認める法や制度もあまりありません。
しかし、最近の動向では当事者たちの地道な運動により、司法、行政方面から、だんだんと権利が拡大しているように思います。
4なぜ、人権の視点が重要か
LGBTQ/性的マイノリティの現状
脆弱(vulnerable)な立ち位置
- 安心・安全ではない社会の中で生きている
- いないことにされたり、後回しにされたり →傷付けられやすい状況を生きている/生きさせられる
不均衡な(disproportionate)影響を受ける
- 想定外の存在として不利益が偏って与えられる
- 違いは個性?みんな違って、みんないい?(どうでも?)→制限のある現状が見えにくく/わかりにくくなりがち
人権は大切です、なぜなら…
みんな同じ人間なのだから
LGBTQ/性的マイノリティも人間である
SOGI(ESC)はすべての人が持つ属性・特徴
みんな違う人間だから
マジョリティではない存在としての歴史と現状
違いを違いとして生きること、尊重すること
違いをもつ人間だから
当日資料より
…SDGsには「誰一人取り残さない(Leave no one behind)」という根本理念があります。性的指向や性自認にかかわらずすべての人に到達しなければ、この目標は達成できないのです。
藩基文国連事務総長によるLGBTコアグループ会合挨拶(2015)
以上が第一部の基調講演でした。
今まで問題として意識していなかったことばかりで、新しい世界が開かれたような気持ちです。
LGBTという用語は何度も目にしていましたが、実際にその内容ときちんと向き合う機会は今回が初めてでした。文化作品や、身近な例などで、自然なこととしての関わりは少しはありますが、学問的に学んだのは初めてでした。
行政書士の役割
第二部はそのような現状を踏まえて現時点で行政書士が果たせる役割についてパネルディスカッションが行われました。
具体的な事例や提案で非常に分かりやすく、私も是非役に立ちたいと思わせてくれる内容でした。
以下、内容を簡単にまとめました。
はじめに
2019 (令和元)年 行政書士法が改正され、第1条の目的規定に
「国民の権利利益の実現に資すること」の文言が追加された。
その後の日本行政書士連合会の部会で
高齢者、障害者、外国人、LGBTの権利擁護に重点を置くことが決められた。
LGBTを取り巻く日本の現状
- 犯罪ではない。→ソドミー法は無い。
- LGBT差別を禁じるような特定の法律がない。
- 戸籍上同姓同士では婚姻できない、法的保障がない。
- 法的な家族になるための法制度がない。
- 法律上の「配偶者」になれないので、もしもの時に困る。
- (医療、保険、共有財産、相続、葬儀、在留資格、、、)
- 性別変更は可能だが、要件が厳しい(20歳以上・未婚・未成年の子がいない・生殖腺がない・性器の見た目が望む性別に近いこと)
学校では
異性との付き合いを前提にした性教育しかない。
会社では
パートナーがいても事実婚とは見做されず利用できない。
日常生活では
男女別のトイレや更衣室など不便がある。
不動産契約などで条件により住居を借りられない。
パートナーが入院した時に親族でないと説明や面会が受けられない。
自治体のパートナーシップ制度
現在240自治体でパートナーシップ制度がある。
東京都パートナーシップ宣誓制度
2022年11月より運用開始。しかし、法律ほどの法的効果はない。
行政書士としてできること
- パートナーシップ契約書:公示機能はないので、第三者に対抗できないが、
日常家事代理権
貞操義務
相互扶養義務
離別の際の条項
などを契約書に落とし込むと良い。
- 遺言書
相続の代替として → 相続家族の遺留分を考慮する。
相続家族との関係を良好に保てると良い。
法的な親子関係がない子→未成年後見人の指定を遺言に盛り込むと良い。
- 贈与契約
- 財産管理等委任契約
- 死後事務委任契約
- 任意後見契約(公正証書)
被害届、告訴状 :クローゼット(内密)な関係の場合のトラブル
アウティング脅迫など。
書類の作成はできるが、紛争性のあるものは注意が必要。弁護士との連携が重要になる。
- 在留資格申請
外国人同性カップルの場合
外国籍同士の同性カップル(本国で法的に婚姻している場合)=日本で特定活動取得可能
日本人と外国人カップル=現在は認められていない。(外国で法的に婚姻した日本人と外国人カップルが現在裁判中)
東京地裁判決(2022年9月30日)→原告の訴え却下も、「この場合でも適用すべきだった。憲法14条1項違反」と指摘。
今後は認められ、将来の法改正が見込まれる。
難民認定申請
現在はソドミー法がある国からの難民申請に対して、許可が下りる可能性は極めて低い。
地域との橋渡し役も重要
避難所問題
災害時の避難所での、対応に不慣れである。地域密着の特性を活かして、日頃から自治会や行政との調整ができると、緊急時に役立つ。
同姓同士の婚姻平等を求める裁判
法律上同性どうしの結婚を認めないのは憲法に違反すると全国5か所で集団訴訟。
東京地裁判決(2022年11月30日)
原告の訴えは棄却したものの、憲法24条2項に違憲した状態であると指摘。
今後の法改正が見込まれる。
結論:行政書士は現状の法制度の中でも権利擁護のために工夫ができる。
実際に相談を受けるとき
そもそも社会的、法的認知度の問題から司法アクセス障害、相談しにくい状態である。
相手の立場を決めつけるような言い方は、相談者に心理的負担をかけることもある。(不動産屋や役所の言葉で傷ついた。)
お連れ合い、パートナー、ご家族、などと言い換える。
差別的な言葉は使わない。差別的冗談に迎合しない。
相談内容はさまざまなので、きちんとニーズを汲み取る。
守秘義務は当然。
アウティングは絶対ダメ。命にかかわる心理的傷を負わせることもある。
専門家としての正しい知識を身につける。
失敗を恐れずに、謙虚に率直に対応する。
業務から離れて性の多様性について考えてみることも大切。
行政書士は活動次第で人権擁護者といえる存在になり得る。
感想
現状ではまだまだいわゆる普通の当たり前の生活を享受するのは困難と言えます。
しかし、近い将来に異性婚と同様の権利を手に入れるのは間違いのないことでしょう。
また婚姻以外の性的マイノリティに関わる権利も拡大していくことも間違いのないことだと思います。
これらのこともきっかけになり、様々な社会的マイノリティの人権享受が、順次時間をかけて進んでいくものと思われます。
人類の知性や意識はどのような未来の社会を描き、世界は今後どのように変化していくのでしょうか。
途中までしか見届けられませんが、どのようなものであれ、非常に楽しみです。
そんなところにまで想いを馳せられた、良いセミナーでした。
ありがとうございました。